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マクロ経済 [経済ネタ]

マクロ経済を読む
  2014年10月13日付けの日経新聞の記事『エコノフォーカス 海外の稼ぎ、賃金に回らず』では、以下のように述べられている。

 「統計では国内外での価値の伸びほど賃金は増えていない。海外で稼いだ企業が国内での賃上げをためらうためだ。企業が国内で収益力を上げなければ展望は描きにくい。(加藤修平)」
 
同記事に、記載されたグラフ『稼ぎの伸びほど賃金が伸びない(前年度比増減率)』では、2013年度の「稼ぎ/名目GNI (国民総所得)」の前年比が2.3%増となっている。この時の名目GDP(国内総生産)の前年比は1.9%増となっており、海外での稼ぎが大きく成長したことを意味している。また、グラフの「賃金(名目雇用者報酬)」は、大きく成長した「稼ぎ/名目GNI」に比べ比例した成長は見られず、成長率が低い結果となっている。つまり、加藤氏が述べていたように「国内外での価値の伸びほど賃金は増えていない」のである。
では、なぜ企業が海外で稼ぎを伸ばしているにも関わらず雇用者らの賃金が伸びないのだろうか。海外の現地に法人を設立することで、多くの企業が成長部門も海外にシフトし、世界の経済成長を取り込もうという動きがある。海外での雇用は日本人ではなく、賃金の安い現地の人々を雇用者とすることが多い。一方で、国内に取り残された企業雇用者の多くは、国内に残された成長性の低い分野・部分に追いやられ、「成果主義」の中で苦戦している状態である。企業の海外での稼ぎが国内雇用者に回らないのは、民間企業の場合、株主らにできる限り最大の利潤を還元しなければならないため、外の稼ぎに貢献していない国内雇用者に配分するのは二の次となってしまう。このことから、「海外の稼ぎが国内の賃金に直結しない」のである。
「稼ぎ/名目GNI」と「賃金(名目雇用者報酬)」をグラフで比較することには次の意味がある。例えば、『1人当たり名目国民総所得(GNI)』と表記されるとき、「自分の所得」と比較して考えてしまいがちである。しかし、名目国民総所得(GNI)とは、政府と民間企業(あるいは個人)の所得を合計した国所得の額である。そのため、個人や国の所得が増えずとも、企業の所得が増加して所得合計が増えるだけで、”一人当たり”も増加したこととなってしまうのだ。GNIだけでは見えない点を「稼ぎ/名目GNI」と「賃金(名目雇用者報酬)」を比較することで、明確にすることができるのである。
国民総所得GNIの計算に用いられる要素の一つ「交易条件」は、輸出されるいろいろな財やサービスを指標化するため、輸出財価格指数と輸入財価格指数の変化の差で表される。日本が海外から輸入するものが安くなるほど日本の実質所得は高くなる。一方で、日本から輸出される財やサービスが高評価であればあるほど、日本の所得水準は高くなるとされている。これを踏まえ同記事の2つ目のグラフ『経済の実力を測る3つの指標』の「交易損失」について見ていきたい。このグラフについて、同記事では以下のように述べらている。

「経営者が賃上げに応じにくいのは、日本の競争力が落ちているためでもある。輸入する原油や天然ガスなどの資源が値上がりする一方で、輸出品はさほど値上げできていない。こうした交易損失によって13年度は5年度に比べて約21兆8千億円の所得が海外に流出した。」

日本貿易会JFTC(Japan Foreign Trade Council)の報告によると、2013年の輸出は、アメリカの景気回復と日本の円安を受けて、自動車、有機化合物、鉱物性燃料などのおかげで、69.8兆円(前年比10%増)と3年ぶりの増加となっている。しかし、数量ベースでみると、日本の主要な製造業の生産拠点が既に海外に移転していることや品質的な面でも向上してきたアジア企業との競争が影響し、2012年(5%減)より減少幅は縮小したものの、2%減と3年連続で減少した。なおアメリカ向けが12.9兆円(同16%増)となり、中国向けの12.6兆円(同10%増)を5年ぶりに上回っている。また、2013年における円建て比率 は36%となり、2012年より3ポイント低下した。
 2013年の輸入は、原子力発電所の稼働停止に伴う燃料輸入の増加と、景気回復に伴う需要の増加に円安が加わり、原油及び粗油、LNG(液化天然ガス)、半導体等電子部品などを中心に、81.3兆円(前年比15%増)と4年連続で増加している。2008年の79.0兆円を上回り過去最大を更新した。数量ベースでも0.4%増とわずかながらも4年連続で増加した。最大の輸入相手国である中国からは17.7兆円(同17%)と過去最高を更新した。また、2013年の輸入取引における円建て比率は21%となり、2012年度より1ポイント低下している。
 2013年の輸出入についてまとめると、通関収支 は11.5兆円(前年比65%増)の3年連続の赤字となり、貿易総額は151.1兆円(同12%増)と4年連続での増加となっている。同年の輸出指数について、数量は3年連続でマイナス、価格は4年連続でプラスとなり、同年の輸入指数の価格も4年連続でプラス、また数量も4年連続でプラスとなっている(この貿易の輸出入については後の記事の経常収支とも関連している)。つまり、日本の輸出品の価格は上昇してはいるが、海外の輸入品の価格も増加しているため日本はより一層、世界での競争力をつけていかなければならない状態にある。また、日本の輸出品価格は上昇しているものの、その数量がそれに伴っていないため、交易損失が生じている。海外に稼ぎが流出するなか、この損失によって国内雇用者への賃金が回らないひとつの要因になっている。

 このような状況下で、来年の消費税10%への再増税が日本経済の大きな争点となっている。それについて、同誌の平成26年10月6日付けの記事『ニッケイの大疑問 消費税、10%にあがるの?』をみていきたい。
 
「2012年8月に社会保障と税の一体改革関連法が成立しました。今年4月に5%から8%に、15年10月に10%に引き上げることが決まっています。ただ、実際に引き上げる際には、経済情勢など総合的に勘案したうえで判断する条項が盛り込まれています。8%に引き上げる際は政府で議論され、昨秋、安倍晋三首相が法律通りに引き上げることを決めました。今回も15年度予算案がまとまる年末までに判断します。据え置く場合、引き上げを停止する法案を国会で可決する必要があります」

 消費税10%への引き上げについては、様々な意見があり多くの議論がなされている。
 再増税を反対する理由について、経済学者片岡剛士は以下の3点を挙げている。
一つ目は「消費税増税は社会保障制度を維持するための安定財源ではない」ということである。その理由は、社会保障給付費が年々増加し続けているからである。片岡氏によると、2013年度の社会保障給付額は総額で110兆円。また、消費税10%へ再増税した際の消費税収は13.5兆円程度である。つまり、再増税をして税収を得ても、年に3~4兆円ベースで増加する給付額に対しては、数年程度の安定しか得られないのである。この理由から、「高齢化に伴う社会保障の充実に消費税の再増税は必要」は増税賛成の根拠とはなりにくい。二つ目は、「消費税は低所得者に対して厳しい税である」ということである。累進税である所得税とは違い消費税は逆進性 をもつ累減税であり、低所得者に対しては負担がより大きくなる。再増税を決行するのであればそれに準ずる低所得者に対する何らかの支援策を考えなければならない。また、それに伴う社会保障給付額の増加も免れることはできないのである。三つ目は、「消費税増税は経済への悪影響が大きい」といことである。ここで片岡氏は「消費税増税は駆け込み需要と反動減、そして増税分だけ商品の値段が平均的に上がってしまうことで家計の実質的な所得 が低下し、その結果、支出が抑えられるという二つの経路を通じて日本経済に影響する」と述べている。
ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン氏は、週刊現代2014年9月13日号で「日本経済は消費税10%で完全に終わる」と主張している。クルーグマン氏は、アベノミクスによる株価上昇や景気が回復基調を評価したものの、来年の消費税10%への引き上げについて再び、デフレ不況を招く可能性があるとして疑問を呈している。また、8%から10%に引き上げるのではなく、8%から5%に引き下げ、インフレ期待を引き上げるべきであると主張している。
 この消費税再増税の議論の最中、アメリカでは2014年10月30日をもって、超金融緩和である量的緩和(Q3)が終了 した。アメリカが超金融緩和を終了したことにより、日本経済は、いつアメリカが利上げに踏み切るか、という点に関心を寄せられている。これを受け、日銀の黒田氏は「サプライズ緩和」 を翌31日に決行した。この「黒田マジック」は、消費税再増税を来年10月に決行するかどうかの判断へ大きな影響を与えるとされている。この「サプライズ緩和」後、社会党の吉田党首は「日銀が追加の金融緩和を行い、確かに株価は上がったが、急激な円安が国民を直撃しているし、中小企業の経営も大変、厳しくなっている。とても来年10月に消費税率10%に引き上げる環境にない」と主張している一方、増税賛成派の「新党改革・無所属の会」平野元復興大臣は、「予定通りに10%への引き上げを12月で決断していただくのが大事だ。日銀の追加の金融緩和はある意味では、景気浮揚対策であり、日本の財政運営をどうすべきか、という判断はぜひやって欲しい」と主張している。
 
 そもそも再増税は、社会保障の前に財政再建に重点に置かれている。同記事に、次のようなことが述べられている。

「そもそも、なぜ消費税増税が必要なのですか。
『財政再建が課題となっているからです。日本の財政赤字は先進国で最悪です。経済協力開発機構(OEDC)によると、14年の国と地方を合わせた赤字見込み額はGDP比8.4%と2位の米国(5.8%)を大幅に上回ります。14年の政府債務残高はGDP比で約23.0%と、借金で経済危機に陥ったギリシャなどよりも高い水準です。(一部、省略)』

 日本の財政再建に関連し、同誌の平成26年10月6日(月曜)の記事『ちょっとウンチク 経常赤字にも警戒必要』では、貿易の経常収支 と個人金融資産について言及している。(この経常収支については上記で述べたので、ここでの言及はしないことにする。)
 
「貯金・投資バランスで見た経常収支は、政府部門の財政収支と、民間部門の貯蓄超過(貯蓄―投資)の合計だ。日本には、1600兆円という個人金融資産があるが、高齢化の進展でこれからは家計による貯金の取り崩しも進むだろう。」

今までの日本の特徴は、所得が減り続けていながら、個人金融資産が増え続けているとうい点である。低金利でありながら、個人金融資産が引き出されないのである。日本人の高齢者の多くは、平均3500万円の金融資産を残して亡くなると言われている。記事にあるとおり、1600兆円という個人金融資産は日本のGDPよりも数倍上回る金額である。個人金融資産が、市場に出ないのは老後の不安からくるものとされているが、景気が回復しなければこの不安はより一層深まってゆき、貯金の紐もより硬くなってしまう。記事にあるような「高齢化の進展でこれからは家計による貯金の取り崩しも進むだろう」いうことが、必ずしも起こるとは限らない。
しかし、比較的投資がたやすくできるようになってきたため、(一時的なものかもしれないがサプライズ緩和の後押しにより)個人金融資産が徐々に動き出してくる可能性がある。もし、この巨額な個人金融資産を引き出すことができれば、増税による税収よりも眠る個人金融資産の数%を動かすだけで日本の経済状況が大きく変わる。上記の記事に取り上げられていた財政赤字を改善することができるかも知れない(そのためには、金利の利上げが必要になるのだが)。

再増税の判断基準となる日本経済の動向について、同誌平成26年10月17日金曜日付の記事『十字路 もはやデフレではない、のだが』では、以下のように述べられている。

「デフレは物価の持続的な下落を意味するという定義に従えば、今はもうデフレではない。消費者物価の前年比上昇率は足元で3%を超えている。消費税引き上げの影響分2%を差し引いても1%超の上昇だ。日銀が掲げる上昇目標には届いていないが、物価は明らかに上昇しているといえる状況にある。」
 
 物価の上昇と聞いて頭に浮かぶのは、先方で述べたような東日本大震災による燃料輸入の増加、より身近な生活では野菜の高騰である。このことから、デフレからは一応脱却した、と筆者は考える。
 同記事では、物価上昇には「国民の実質所得の増加と両立する物価上昇」と「国民の実質所得を減少させる物価上昇」の2種類があるとし、後者は円安を原因とするものであるとしている。この記事の数日後、「米国の超量的金融緩和の終了」と「サプライズ緩和」が決行され、に円安が進行している。これを踏まえると、後者の「国民の実質所得を減少させる物価上昇」になりかねないのではないか。また、物価上昇にさらに拍車をかけるのが、来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げである。
 東京ロイター通信によれば、安部首相は11月7日夜〝来年10月に予定される消費税再引き上げによって経済のトレンドが崩れることがあってはならない″と述べ、「首相はまた、日本経済はデフレから脱却しようとしており、脱却はしていないがデフレではないという状況は作ったとしたうえで『(消費再増税判断で)こうしたトレンド が崩されてはならない。デフレからしっかり脱却して経済を力強く成長させていく上で、どうすべきかという判断をしなくてはならない』と語った。消費再増税の判断時期については『年内に判断する』とした」とされている。

 日本経済について、特に消費税増税・税率10%への引き上げを決行するかどうか次第で、今後の日本経済は大きく変化する。増税を決行するにせよしないにせよ、どちらにも必ずリスクはある。そのリスクをどれだけ最小限に抑えられるかで、決断した結果の善し悪しが決まる。リスク対策は一貫したものではなく、その時に応じた(適切な時に、その対策は友好的に発揮されるような)ものでなければならない。
「米国超金融緩和終了」や「サプライズ緩和」などの1日単位の出来事が、今後の日本経済・消費税再増税決行に大きく影響していくことは間違いない。今後の政府や日本経済の動向に注目していきたい。

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